GOKUSEN(原作ver)


注意!!
信じられないことですが、なんと在学中にできちゃってます。
ついでに言えばビミョーにエロいので、そういった話がお嫌いな方、実際の年齢または自分は精神的にお子ちゃまだと思われる方は、どうぞ回れ右してくださいませ。




















閉じた瞼の向こう側で少しずつ荒くなる息遣いと、身体の動きにあわせて擦れるように触れる思っていたよりずっと柔らかい髪の質感。抱きしめた背中にしっとりと滲んでくる汗を掌で包み込む。
高まっていく意識の中で、唐突に、首筋にかかる息が色を持った。
「・・・どうして欲しい?」
耳朶の下で熱い唇が蠢く。
「・・・え?」
「どうしたら、気持ちよくなんの?」
「は?」
「言って・・」
その声音は行為を楽しむと言うよりどこか切羽詰った響きを含んでいて女は戸惑う。
何故突然そんなことを訊くのだろうか。そんな質問に答えられるほどの経験が自分にないということは、今身体を寄せ合っているこの男が一番よく知っている筈なのに。
そう思って相手にしないでいると頭を抱き締められ強く打ちつけられた。
「言ってっ・・・」
「・・・っ」
思わず仰け反った喉から漏れそうになった声を固く閉じた口で押し留めると、唇をきつく齧られた。
「声、出して」
「・・・やっ」
「出してっ・・」
ベッドの中でだけ甘えた口調になるのはいつものこと。
それにしても今日は少し様子が変だ。
一体何をそんなに苛立っているのだろうかと激しい動きの中で思いを巡らしていると、不意に凪いだ流れにかわり、今度は泣きそうな声で訊ねられた。
「もし、あいつがお前のこと好きだって言ったらさ」
「・・・」
「それでも、俺とこんなことしてくれんの?」
 ───・・・あいつ?
そうっと瞼を開くと、暗闇の中思い詰めたように揺れる男の瞳が自分を見下ろしていた。その顔はまるで母親とはぐれて行き場を失くしてしまったコドモのようだ。
ああ。
なんだ。こいつは昼間のことをまだ気にしていたのか。
今にも崩れそうな男の表情が可笑しくて可愛くて堪らず笑みを浮かべた女は、その赤い髪の毛に指を這わせて優しく撫であげた。


今日、土曜日の昼過ぎ、祖父の黒田龍一郎と若松、そして弁護士の篠原が艶々に磨かれた黒塗りの車で出掛けるのを見送っていると、ふらりと沢田慎がやって来た。
「いってらっしゃーい」
明るく手を振る山口久美子に車中の篠原が軽く手を上げる。
誰が見ても大人の魅力たっぷりで、かなりいい男の部類に入ると思われる篠原はいつも久美子に優しく微笑む。
彼に言わせると「久美子ちゃんは妹のように可愛い」らしい。
久美子がいつまでも去って行った車を見ていると、いきなり慎の指が伸びてきて左頬を摘まれた。
「いてててててっ」
「お前、何、ほっぺ赤くしてんだよ」
「え?赤い?ほんと?」
頬に手を当てると微かに温かい。「あれ、ほんとだ」
慎は横目で久美子を睨んだ。
「お前、まだあいつに気があるんじゃねえの?」
久美子は両腕を胸の前で組むとふふふ、と不敵な笑みを浮かべた。
「まあね」
抜けぬけとそう言う。
「・・・」
瞬間絶句した慎は不貞腐れたようにそっぽを向いた。
「だって、高校生の頃から好きだったんだよ。かれこれ6年だ。他に惚れた男ができたからって、急に嫌いになんかなれないよ」
今度はにひひ、と笑って、慎の脇腹を肘で突付いた。
「お前にだってそういうコいるだろ?怒らないからさ、隠さないで言ってみろ」
「いねえよ」
冷めた声で言うと、やってらんねえ、と低く呟いて中庭に回りエセ土佐犬の富士の相手をし始めた。
暫く縁側に座って富士と戯れる慎の背中を見詰めていたが、突然慎が思い出したように
「篠原って、なんでここの弁護士やってんの?」
そう訊いてきた。
「だから前にも言っただろ、おじいちゃんが・・・」
「その話は聞いたけどさ。ほんとにそれだけなのかよ」
慎は久美子のほうに歩み寄ってくると、「もしかしてあいつもお前のこと好きなんじゃねえの?」
言ってから、はっとしたように口を噤んだ。
もしそれが真実だったら自分はどうなるのだろうという心許ない顔で久美子を見詰めている。自分で自分の言った台詞に打ちのめされているのだ。
久美子はそんな慎が腹立たしくて仕方がない。
 ───ばっかだねえ。そんなに不安な顔するくらいなら、初めから口に出さなきゃいいのに。
久美子は呆れた顔で立ち上がると慎に擦り寄って、今度は自分のほうから慎の両頬をきゅっと摘んでやった。


「・・・どうなんだよ?」
焦れたように問う男に
「そんなの、その時になってみないとわからないよ」
女は冷たく切り返す。
「・・・」
「そんな顔しないの」
久美子は髪を梳いていた指を不服そうな顔付きの慎の後頭部に回した。顎をくいっと差し出すと意を察した慎の唇が久美子のそれに重なって深く絡まる。
 ───ほんっとばかだよ、沢田。お前はあたしの気持ちをちっともわかってない。
不安で仕方がないのはいつだって自分のほうなのに。


今はまだ高校生の慎が、いずれ社会に出て行ったときそれでも自分を必要としてくれるのか。
それを考えると怖くて堪らない。だから後ろめたさを感じつつもこんな関係を続けてしまう。触れ合っているその間だけは安心できるから。
別離がくるのを恐れているのは慎ではなく自分のほうなのだ。
慎はそんな久美子の心細さに気付きもしないで久美子の気持ちを疑ってばかりいる。
慎の唇と舌が名残り惜しそうに離れると久美子はその鎖骨に額を擦り付けた。
もしも近い将来その時が来ても、縋り付いて離れて行かないでと泣くことなんか絶対出来ないから。
せめてその姿を見失わないように。
再び寄せてくる波に身体を預けると、久美子はその背中に腕を回してぎゅうっと抱きついた。



                                              04/10/25UP


10. 迷子