GOKUSEN(パラレル)


          
             




二度あることは三度ある、とはよく言ったものだ。


「今日、保健の川嶋休みなんだって」
そう言って職員室から鍵をかっぱらってきた女と保健室のベッドの上で仲睦まじくやっていた。
保健室にはエアコンがついている。めちゃくちゃ快適だった。
情けない話だが、俺はこの時かなりその行為に没頭していたらしくカーテンの向こうの音には全く気が付かなかった。
そういや、ゴム持ってきてたっけ?とズボンの後ろポケットを探っていると、女のほうが自分のスカートのポケットから正方形の小さな包みを取り出して俺に渡してきた。
・・・最近の女子高生ってみんなこうなの?それともこの学校の女だけがこうなのか。俺にはひとつ歳下の妹が居る。なんだか心配になってきた。
いや、そういったことも後になってから考えたくらいその時は夢中で、その包みの隅を口に銜えベルトに手を掛けてさあそろそろ、と思ったその時、
「誰かいるのか?」
カーテンの向こうから声がした。
まずいことに俺の下にいる女が
「きゃあっ」
と甲高い声を上げた。黙ってりゃいいのに・・。
カーテン越しの声の主の見当はついていた。また、あのジャージに眼鏡のお下げの女だ。間違いない。
俺は女の唇に一度人差し指を当ててから身体を離すと床に落ちた自分のシャツを拾った。袖を通しながらカーテンをあまり開かないようにしてそこから抜けると山口の前に向き合って立った。
「なんですか?山口先生」
「なんですかって・・・」
山口はまたお前か、といった面持ちで俺の顔を見遣る。「どうやって、ここに入ったんだ?」
「具合が悪かったので職員室から鍵を借りてきました」
「・・・」
嘘つくんじゃねえよ。山口の目はそう言っていた。見詰め合う俺達の耳に聞こえてくるのはカーテンの囲いの中から聞こえてくる衣擦れの音。馬鹿な女だ。ちょっと我慢してればこんなセンコー直ぐにここから追い出すのに。
俺は何食わぬ顔でシャツのボタンを留めながら
「山口先生は?どうやってここに入ってきたんですか?鍵掛かってなかったですか?」
嫌味たらしくそう訊いてやった。
「川嶋先生から、観葉植物に水やってくれって頼まれてたんだよ。鍵は川嶋先生から預かって・・」
俺の後ろのカーテンが開いて出て来た女が俺の肘を掴んだ。山口は女の顔を見ると目を剥いた。
「沢田君、行こうよ」
「俺、こいつと話があるから、先に戻ってて」
女は山口の顔を一瞥してから黙って保健室を出て行った。
扉が閉まった途端、山口は大袈裟に溜息を吐くと川嶋の椅子に腰を降ろした。
「てっめえ・・。毎回、女が違うじゃねえかっ」
俺はそっぽを向く。
「いいんだよ。どうせ向こうも遊びなんだから」
そう言って窓際に歩いて行って外の景色を見る。窓の向こうのひとっこひとりいないグラウンドにはうっすら陽炎がゆらめいていた。
「信じらんねえよ。近頃の高校生はどうなってんだ」
山口は机に肘を突いて頭を抱え込んだ。
「そんな歳違わねえくせに何言ってんだよ。ばばくせえ」
「お前って、優等生だとばかり思ってたのに・・・。藤山先生、お前のことよく褒めてるんだぞ。すっげえ頭のいいヤツだって」
「俺は優等生だよ」
「優等生はこんなことしないよ」
山口は頭を上げると「お前、友達いないの?」
不躾に質問してきた。
「・・・」
「そういえばいつもひとりでいるじゃないか。いや、ひとりでいるか、女といるか・・」
「うるせえよ」
俺は剣呑な目つきで山口を見据える。「・・・それよりもさ、センセイ」
腰を折って顔を近づけ囁いた。
「俺、中途半端なトコでやめさせられてすんげえ困ってるんですけど」
「は?」
山口は真っ赤になって身体を引こうとするが椅子の背凭れに邪魔されてままならない。
「な、なに言って・・・」
「言ってる意味わかるよな?お前だってつい最近までオトコがいたんだから」
俺は山口の首筋に顔を近づける。目の前にある山口の肌は俺が今まで関わって来たどの女よりも透き通るように白く、美しかった。その事実に俺は驚Iき山口にばれないように目を見張る。
「相手になってよ、センセイ」
両手で肩を押さえてそのやや汗ばんだ首筋に唇を這わすとびくり、とその身体が震えた。
でも、抵抗はしない。
調子に乗って胸の膨らみに手を当てると山口が低い声で囁いた。いや、囁く、っていうのとはちょっと違うかも。
「いいよ。好きにすれば?ただし・・・」
その声の冷静さに驚いて顔を離す。合わせた山口の目は完全に据わっていた。
「あたしも、中途半端は嫌いなんだよね」
「・・・」
「やるからにはちゃんとイかせてくれんだろうね?」
・・・怖い。
「どうなんだよ?」
めちゃくちゃ怖いんですけど、センセイ。っていうか、お前ほんとに教師?
俺は身体を起こすと髪の毛をかき上げる。
「あー。自信ねえ・・・」
そう言うと机から離れてドアのほうに歩いた。
「・・・沢田」
「何だよ?」
引き戸に手を掛けた俺は振り向かずに訊く。
「お前こんなことばっかしてて楽しいのか?」
「・・・」
「友達作れよ、沢田」
「・・・うっせよ。何にも知らねえくせしてよ」
俺は小さく呟きながら引き戸を開けた。がらがらと響くドアの音で俺の言葉が山口の耳に聞こえていたかどうか。
そして俺も、俺の出て行った後の保健室で、ほっと脱力した山口が震えていた事実を勿論知らないでいた。


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                                            04/12/12UP

彼女の髪に頬に目に耳に 2.