GOKUSEN



雲の切れ間に太陽が見える 2.


「どこに深キョンがいるんだよ」
慎の右隣に座った男が小声で呟く。「まさか、あの太った、目のトロンとした子かな?」
その呟きに慎は片方の唇だけ上げて笑った。
「あっ、なんだ沢田君、その笑いは。余裕だな。いいよなモテる奴は。俺も彼女がほしいからこの合コンの深田恭子に賭けてたのによう」
「いねえよ、彼女なんか」
「えっ、いないんだ?なんだ、仲間じゃん」
そう言うと男は慎に握手を求めた。慎は、ははっ、と乾いた笑いを返す。
お酒も飲めるカジュアルなイタリアンの店に来ていた。男女6人ずつ向かい合って座っている。
似た様な髪形、化粧、服装の6人の女たちが並んでいるのを見て慎は心の中で溜息を落とす。
 ───また、名前覚えらんねえよ。




「山口先生、今日は随分大人しいですね」
篠原に優しく声を掛けられて久美子は途端に声が裏返る。
「えっ、そんな、大人しいなんて、いつもじゃないですかあ、篠原さん」
「何つまらん冗談言うてんの。ほら、もっと飲み」
川嶋菊乃がビールを注ぐ。
 ───つまらん冗談ってなによ。・・それにしてもなんであたしってこう、篠原さんの前だと緊張しちゃうんだろ。
久美子は二度、篠原とふたりだけでデートをしている。しかし結果は芳しくなかった。緊張しすぎて会話が続かなかったのだ。しっくりこない。合わない。気詰まり。窮屈。憧れは憧れ。理想は理想。所詮高望み。そんな言葉がデートの間中もう頭の中をぐるぐるぐるぐる・・。5人でわいわいやっていたほうが余程楽しいとさえ思えた。
もう1年以上前の話だ。それ以来ふたりきりで会ってはいない。
「あんた、藤山先生に聞いた沢田の話、気にしてんのやろ?」
川嶋菊乃が回りに聞こえないように小さな声で言う。
「えっ?やだな、川嶋先生まで何言ってるんですか。全然全くこれっぽちも気にしてませんよ。沢田に彼女がいるなんて喜ばしい限りです」
「そやけどあんた顔引きつってるで」
「え」
店内の喧騒が耳障りだ。川嶋の言葉がよくわからない。
「それにそれ、本気で言うてるのん?」
「本気で言うてますよ。・・川嶋先生、あたしは沢田の元担任ですよ。沢田はあたしにとってそういう対象じゃないんです」
川嶋は呆れたような視線で久美子を見ると
「あんた、下らんことにこだわってたら、本当に大切なもの見失うで」
「・・・」
「それに」
川嶋は残りのビールを呷ると、「あんた、昨日沢田の話聞いた時、今にも泣き出しそうな顔してたんよ」
 ───泣きそ出しうな顔?あたしが?
「本当にただの元生徒だと思ってるんなら、あんた、あんな顔せえへんやろ?」
そう言って立ち上がった。
「明日裕太の野球の試合があるよって、お先に失礼するわ」
「僕が送っていきましょう」
そう言う柏木を軽く諌めると、川嶋は手をひらひら振りながら店から姿を消した。
久美子は急に独りぼっちにされた幼子のように心許ない気持ちになった。
胸のしこりはまだ存在していた。

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