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第十章 ちがうって、言ってるのに  3.
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 月曜日の朝。

 教室へ向かう階段の下。佐藤君がいた。佐藤君があたしより早く来てるなんて珍しい。昨日、ハヤセケイタのショーはどうだったんだろう。ショーが終わった時点でメールだけはくれたんだけど。ばっちりだったって。ピースサインの絵文字付きメール。でもそのあと電話はなかった。きっと忙しかったんだろうな。

 佐藤君は誰かと話をしていた。女子の制服。

 内藤さんだ。

 ふたりは携帯電話片手に何だか言い合いをしているように、遠目にはそう見えた。何だろう。

 近づいていくとふたりが同時にこちらを向いた。同じタイミングで目を見張る。驚いたみたいな顔。何?

「おは、よ」

 恐る恐る挨拶してみる。

 内藤さんはつんとそっぽを向くと、佐藤君に、

「大人しそうな顔して。わかんないもんよね」

 そう言って階段を昇っていった。

 何? 喧嘩?

「どう、したの?」

 佐藤君に声をかけると、佐藤君は放心したような顔をこちらに向けた。じっと見つめてくるだけ。何も言わない。

「佐藤君?」

「……ああ。はよ」

「何かあったの?」

「いや。大したことじゃない」

「ふうん」

 ふたりで階段を昇る。佐藤君は手にしていた携帯電話を胸ポケットに仕舞った。

 昨日のことを訊きたいんだけど。声をかけるのが憚られるような雰囲気だった。

「平澤」

「うん」

「あのさ」

 こちらの顔は見ない。視線を斜め下に落としている。顔つきが暗かった。本当にどうしちゃったんだろう。

「土曜日。平澤、国際フォーラムから家まで真っ直ぐ帰ったんだよな?」

 目を見開いて立ち止まっていた。

「え? どうして?」

「いや。訊いてるのこっちなんだけど」

 佐藤君が目を合わせてきた。思わず目を泳がせる。高本先輩の顔を思い出していた。先輩は佐藤君には話してもいいって言ったけど。でも。簡単に口に出すべきことじゃない。どうしよう、と思い、結局、

「うん。帰ったよ」

そう答えていた。

「そう」

 佐藤君は視線を逸らすとまた階段を昇り始めた。顔つきはずっと硬くて。やっぱり。話しかけるのが躊躇われるような空気を漂わせていた。

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