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第三章 デ・イ・ト 2.
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 土曜日。

 屋外での撮影を終え、帰宅している途中の駅で、シーンズの尻ポケットのケータイが震えた。ずっとマナーモードにしたままだった。歩きながら真っ黒な四角いそれを開く。

 メールだ。

 でも、登録されていないアドレス。

 胸がとくん、と跳ねた。

 平澤?

 すぐにボタンを押していくと、やっぱり平澤かれんからだった。

 

 Subject:平澤です。

 ・・・・・・

 ケータイ買いました。佐藤君と同じDoCoMoです。今ね、姉と妹に教えてもらって使い方を特訓中です。PCが使えるから大丈夫だって佐藤君は言ったけど、ケータイはPCとは全然違うというのが今のところの感想です。一番に佐藤君のアドレスを登録しました。あたしのも登録してください。電話番号は、080XXXX…です。よろしくお願いします。


 読み終わったあと、ぶはっと吹き出した。

 何だ、こいつ。恐ろしくかったい文章だな。本当に高校生かよ、と思う。

 駅の隅っこに移動して電話帳に登録した。顔がにやけるのを止められない。誰かからメールをもらってこんなに嬉しかったことって、今まであったっけ?

 すぐに返信した。


 Subject:おめでと

 ・・・・・・

 絵文字くらい使えよ。あと、敬語はやめてくれ。さむい。


 それだけ打って送信する。

 パチンと閉じると、にやけた顔を元に戻して歩き始めた。

 俺の顔を見た女子中学生が、きゃあ、とかなんとか声を上げたけれど聞こえない振りをして逃げた。

 平澤とどこに遊びに行こうかな。

 そんなことを考えながら踵を返した。紀伊国屋が近くにあったはず。マニュアル通りにするのは好きじゃない。だけど。なんていうか。失敗したくなかった。こんな気持ちも初めてだ。

 少し早足で歩きながら、今来た道を戻って行った。また、ポケットが震えた。多分平澤からの返信だ。逸る気持ちを抑えながらゆっくりと、後ろポケットに手を伸ばした。


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