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第三章  「ねえ、これって恋だと思う?」  1.
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 六月に入ってもまだ梅雨はやってこなかった。
 毎日真夏のような晴天が続いている。
 祥子は肩より長い髪を後ろで束ね、半袖のTシャツの上にエプロンをつけた格好で、食器棚とシンクの間の狭い空間を何度も行き来していた。鼻のてっぺんにうっすらと汗が浮いているのがわかる。お化粧はしていない。すっぴんだ。 土でできた器を棚の上段に置き、かわりに取りやすい高さにガラスの器を持ってくる。みょうがや、トマト、きゅうり、大葉などの色濃い夏野菜を使った料理は透明なガラスの器によく映えるのだ。祥子は結婚していた頃から季節や料理に合わせて器を使い分けていた。
「ねえ、祥子さん。こうしてると、家族って感じがしない?」
 今日は日曜日で天も仕事が休みだ。天は六月から、以前より探していた天の言うところの“ガテン系の仕事”に就いている。時給はビデオ店に比べ1・5倍に上がったそうだ。たった数日出ただけで日に焼けてしまい、透明感のあった白い肌は、今は褐色に染まっている。 「家族?」 声の調子に笑いを含んで祥子は答え、洗ったばかりのガラスの器を布巾で包み込む。天は食器棚を拭いていた。
「うん。家族。俺ね、こんなに丁寧に暮らしてる人、祥子さん以外知らないよ」
 丁寧に暮らす。天の言い方がおかしくて、祥子は今度は声を立てて笑ってしまった。
「なーに言ってんだか」
「ほんとだって。ひとり暮らしで毎日ちゃんと自炊してる人なんて、滅多にいないよ」
天は祥子の横に立ってふきんの汚れを水で流し始めた。「生活するってこういうことなのかな、って最近思うんだ」
 天の手元を見ると、ふきんから流れ出る水が灰色がかっていて内心ぎょっとする。これでは丁寧に暮らしてるとは言い難い。天は食器用洗剤を使って洗い始めた。
「それって、そらにとってはどうなの? 楽しいの?」
「楽しいに決まってる」
「ふうん。そうなんだ。それはよかった」
 ちらっと天が祥子のほうを見る。
「本気にしてる?」
「してる、してる」
 ちぇーっ、と天は唇を尖らせた。
「反応軽いなー、祥子さん」
 祥子は並べた器のひとつを手に取ってみた。真っ白な、でも、土の匂いの色濃く残る信楽焼きの小鉢で、とても気に入っている。結婚してわりとすぐに買ったものだ。料理がものすごく得意というわけではなかったので、見栄えだけでも良くしようと器に凝った時期があった。今でも陶器市が催されればつい足を運んでしまう。
「俺ね」
「うん?」
 祥子が顔を向けると、天は自分の心臓の辺りをとんとんと、人差し指で叩いた。天も今日はTシャツを着ている。黒地にショッキングピンクの英語の文字がつらつらと並んでいてとんでもなく派手なTシャツだ。フリーマーケットで二百円で買ったのだという。祥子は二百円で買える服というものを初めて見た。
「俺、祥子さんといると、ここがね、すごく温かくなるよ。他の誰と暮らしてもね、こんな気持ちになったこと、一度もないよ」
 邪気のない顔でにっこりと微笑む天。胸を衝かれた思いがした。
「ほんとだよ?」
 祥子はどう言葉を返せばいいのかわからなくて、ただ曖昧に頷くことしかできなかった。
 天はそんな祥子を気にする様子もなく、再び食器棚に向う。
「ねえ、ここは?」
 ふたつ並ぶ抽斗を指差している。
「ここはどうする?」
「え、と。そうね」
 ひとつの抽斗には使っていない布巾類を、もうひとつの抽斗には家電の説明書を仕舞っている。説明書の中には古くなって処分してしまった電化製品のそれもまだ残っているはずだ。ついでに整理してしまおうと思った。
「じゃあ、中に入ってるもの、全部テーブルの上に出しておいて。後で、あたしが見るから」
「了解」
 天は言われた通りにてきぱき働いている。その快活で明るい横顔を見ていると、あの夜のことが嘘のように思えてくる。
 孤独に怯え、尋常ではない汗をしたたらせ身体を震わせていた天。あの夜の祥子の行動を天は決して責めたりしなかった。携帯の電源を落としていた理由も、誰と一緒にいたのかさえも追及してこなかった。そして祥子も、あの日のできごとを天に伝えられないでいた。
「祥子さん」
「なあに?」
「これ」
 カウンター越しの天は、一枚の小さな紙を手にしていた。先程までのはしゃぎようはすっかり鳴りを潜め、強張った表情で食い入るように手にした紙を見つめている。祥子は、考え事に没頭して必要以上にバカ丁寧に磨いていたガラスの器をそこに置くと、テーブルのほうに回った。
 天が見ていたのは写真だった。ふたりの男女が写っている。
「やだ、こんなの残ってたんだ。懐かしい」
 天の手から受け取り、祥子も見入る。
 写っているのは自分と元夫だった男。新婚の頃、週末を利用して温泉地に旅行した時のものだ。ふたりとも新婚らしく仲良く肩を並べ、照れ臭そうに笑っている。撮ってくれたのはたぶん同じような旅行者だ。たった三、四年前の写真だと言うのに、祥子も元夫も若々しい。
──こんなときもあったんだよねえ……。
 そう。幸せな時も確かにあったのだ。憎んで別れたというより、冷え切った気持ちで離婚届にサインした。けれど、こんな風に、ずっとこの相手と一緒にいよう、そう思っていた時期も確かにあったのだ。一枚の捨てることさえ忘れられていた写真がそれをおしえてくれる。 祥子は何だか泣きたいような郷愁に包み込まれていた。
「だ、れ?」
 天の声に思わず我に返った。いけないいけない。自分の世界に入り込んでしまっていた。
「あ、ああ。え、と、元夫」
 天は夫という言葉に反応して、僅かに眉を上げた。
「あたし、結婚してたって言ったでしょ?」
「うん」
「この人がね、その相手。こういう顔して並んでたときもあったんだなあ、って思い出してたの。そんな昔でもないのに。結局別れちゃっていまは天とこうして暮らしてる。不思議よね?」
「今でも、好きなの? その人のこと」
「え? まさか」
 祥子は笑ったけれど、天は真面目な顔を崩さなかった。
「でも、祥子さん、すごく幸せそうな顔してる。そんな顔、俺、いままで見たことないよ」
 え? と驚いて祥子は掌を頬に当てた。
「やだな。そんなことないわよ。ただ懐かしかっただけ。この写真見るまで、顔も忘れちゃってたのよ」
 終わってしまったことだから笑えるのだ。離婚しようと話し合っていた頃は気持ちが冷めていたとはいえ、やはり毎日が辛かった。彼がここを出てから半年くらいは顔を思い出すのも嫌だった。あの頃のことを思えば、こんな風に笑えるなんて、すでに祥子の元夫への思いは綺麗さっぱり霧散されたということなのだろう。
「ふーん。そういうもの」
天がもう一度見たそうに手を伸ばしてくる。
「じゃあ、もう、いらない? これ」
「そうね、もういらない、かな」
 祥子は天に写真を渡すと、カウンターを回った。 ガラスの器を手にしたところで、ぐしゃり、と紙を潰す音が耳に入って祥子ははっとした。
──え。
 天が写真を握り潰していた。瞬間祥子は自分が天に捻り潰された虫や小動物にすり替わったような錯覚におそわれた。
 天は何の躊躇いも逡巡もなく掌の塊をゴミ箱に放る。
 全身が総毛立った。幼い頃に燃やされたアルバムが脳裏を掠めた。
「そ、ら?」
 天が顔を祥子のほうに向ける。何? とでも問いた気ないつもの表情だ。祥子は憤りを隠せなかった。
「何するの?」
「え?」
「どうして、そういうことするの?」
「え。だって、祥子さん、いらないって言ったから」
 明らかにわけがわからない様子の天。祥子は再び天の前に立つ。
「言ったわよ。言ったけど、写真をそんなふうに扱うってどういうこと?」
祥子は打たれたように動かなくなった天の横をすり抜け、ゴミ箱から写真を拾い上げた。震える指先で皺を伸ばす。
「ここに人が写ってるの。あたしが、写ってるのよ。目の前でこんな風にめちゃくちゃにされていい気持ちがすると思うの?」
 祥子は天の顔を見つめた。泣きそうに濡れた茶色い瞳にははっきりとした困惑が滲んでいる。
「本当にわかんないの? そういう気持ち」
 頷くことも、首を横に振ることもしない。どうして叱られているのか、その理由がさっぱりわからない、ただ自分が何か途轍もない失敗をやらかしたことだけは理解している、そんな顔つきを天は見せていた。
 ああ。そうか。
 祥子の胸が締めつけられるように痛んだ。
──天には本当にわからないんだ。
 祥子は、視線を落として暫く考え込んだ。天の裸足の爪先が映る。長い指先。日に焼けていない足は真っ白だった。やがて顔を上げた祥子はゆっくりと口を開いた。
「あのね、写真はこんな風にしちゃいけないの。特に人物が写ってるときはね。どうしてかっていうと、そこに写ってる人までぐちゃぐちゃにされたような気持ちがするからよ。握り潰されたような気持ちになるの。わかる?」
 天は大きく目を見開くと、唇を微かに震わせた。
「ご、めん。俺、そんなつもりじゃ」
「うん。わかってる。あたしも突然怒って悪かったっていま、反省してる。ねえ、そら。あたしが言ってること、本当にわかる?」
「うん。わかるよ」
「それなら、いい。わかってくれたら、それでいいから」
 天は泣きそうな顔で頷いた。
──そんな情けない顔、しないでよ、バカ。
 こちらまで泣きたくなってくる。
「ここはあたしが片づけるから、そら、食器を棚に戻してくれる?」
「うん」
「土の器が上の段で、ガラスの器が、下」
「うん。わかってる」
 後はふたりとも押し黙って片づけをした。天の気落ちした空気が部屋中に蔓延しているようで、祥子まで暗鬱とした気持ちになってくる。結局、写真には祥子がハサミを入れた。捨てなくてもいいかな、という思いはあったけれど、天が気にしているようなので、天のいるところで処分したかった。祥子の行為と、天の行為と、どう違うのかと問われてもきっと上手く説明することはできないだろう。言葉では難しい。感情の問題だ。
 気がつくと十二時前になっていた。昼食の用意をしなくてはならないが、食欲はない。暑さのせいだ。湿気が多くて、首筋にねっとりとした汗をかいていた。
「そら」
「はい」
 天はまだ硬い表情をしていた。
──はい、って何よ。
 自分如きがそんなに怖いのかと可笑しくなった。
「お昼どうしようか? 何食べる?」
 祥子が笑って話しかけると、天は安堵したのかたちまち頬を緩めた。
「俺は何でもいいよ」
「あっさりしたものがいいんだけどな」
 冷やしうどんか。ソーメンか。頭の中で考えながらキッチンに立つ。うどんの乾麺があったのでそれを取り出し、作り方の欄に目を通す。ゴールデンウイークの旅行土産だが、金属部の誰から貰ったのかは思い出せなかった。讃岐うどんと記してあるので香川に行ったんだな、と思うくらいだ。
「祥子さん、汗、かいてる」
 後ろに立った天がそっと首筋に指を這わせてきた。
「うん。だって、暑いんだもの。そらだって……」
そこまで言ったところで指の代わりに唇が落ちてきた。背後から腰に腕が回り柔らかく抱きしめられる。祥子は唇が動きやすいように首を少しだけ傾げた。うどんの茹で時間を確認しながら、暫くそのまま放っておいたが、天の手がエプロンのリボンを外しTシャツを捲ったところで手を重ねてその動きを止めた。
「やだ。……やめて」
 天は耳許に這わせた唇で言う。
「……しよう?」
 上半身への侵入を拒まれた指先は、今度は七分丈のパンツの腰紐を解き始めた。祥子は身を捩る。
「いやだ、ってば……」
 ごまかそうとしている、と思った。天は先程の自分の失敗を身体の繋がりを持つことで相殺しようとしている。動きを止めない指先に、祥子のほうもおかしな気持ちが芽生えてきて焦った。
「やだ、ほんとうにいや。やめて、そらっ」
 天のほうに向き直って、睨みつける。頬が熱い。こんな顔で抵抗したところで効果があるのかどうか。祥子は自分が恥ずかしかった。
 今度は正面から抱き竦められた。何が起こったのかよくわからなくて祥子は目を見張る。
 強い力だった。息もできないくらいきつく抱きしめられていた。
「……そら、」
 苦しい、という言葉は天の台詞に遮られた。
「嫌わないで、祥子さん」
 切羽詰まった声だった。天の腕はただぎりぎりと祥子の身体を締めつけてくる。
「お願い。祥子さんの言うとおりにするから。何でもするから。お願いだから俺のこと嫌いにならないで」
 祥子の全身から力が抜けた。何を言っているのだろうか、この男は。天は祥子の気持ちを少しもわかっていない。嫌いになれたらどれほど楽だろうかと思う。孤独に身を震わせ小さくなっていた天を目の当たりにして以来、祥子の中で天への愛しさは急激に膨らんでいるのだ。まるで、春が来て芽吹く草木のようにふっくらと。
 Tシャツ越しに天の心臓の鼓動が聞こえてきた。とくんとくんと規則正しい音。若く瑞々しい音だ。祥子は天の胸でくすりと笑った。
「嫌わないわよ。バカね。何言ってるの」
「ほんとに?」
「あたしに嫌われたくなかったら……」
 天がごくんと音を立てて息を呑む。
「……なかったら?」
「お昼ご飯作るの、邪魔しないでちょうだい」
 天は一瞬きょとんとして、それから口許を緩めた。ほっとしたような笑顔が浮かぶ。
「うん。わかった。俺も手伝う」
 讃岐うどんはコシがあっておいしかった。さすが本場の味は違う、と妙に感心させられた。ただ、薬味になるものが万能葱しかなかったのが残念だ。つゆも時間がなくて、市販のものを使う。それでもおいしい物はおいしいのだけれど。
 ふたりでつゆを飛ばしながらすする。天は相変わらずの食欲で、四人分の量が入った一袋全部を茹でたにもかかわらず、ガラスの器の中の麺はすでになくなりつつあった。朝の残りのご飯で握ったおにぎりもついでに頬張っている。祥子のほうは最近ビミョウに体重が増えつつあり、腹七分目くらいで箸を置いた。近頃は代謝が落ちたのだろうか、ちょっと食べ過ぎると体重計の数値にすぐさま跳ね返ってきて驚かされる。きっと年齢の所為なのだ。
 それに比べて天は相変わらず細い。こんなにもたくさんの量を食べているのに。日に焼けても綺麗な顔は綺麗だと、目の前の男の顔に暫し見惚れた。
──なんだろう。やっぱり、目の形がいいのかな。
 猫のようなアーモンド形の目。睫も長い。鼻も高いし唇もふっくらしているのに、全体で見るとすっきりしている。くどい顔ではないのだ。鼻の線が細いからか。或いは、綺麗に整えられた眉の所為か。とにもかくにも美しい。
「何? 祥子さん」
「え?」
「じっと見られてると食べにくいんだけど」
「あ……」
ごめん、と謝る。「お昼から、何しようかな」
 ひとり言のように呟いた。
 頬杖を突き視線を窓の外に向けた。天気もいいし、どこかへ行きたい。公園とかいいな、と考えて、いや、天と自分が一緒に連れ立って歩くのはいかがなものかと考え直す。どう見てもまともなカップルだとは思われないだろう。好奇の目に晒されるのはなんだか嫌だった。
「しようよ」
「は?」
 祥子は突いていた頬杖を外す。
「これ食べたら、しようよ。ってか、したい」
 何を。
「やだ、いやよ。昼間はしない」
「何で?」
 昼の自然な光の中で、裸体を晒すことには抵抗があった。日光の元では肌の状態がありありとわかることを祥子は知っている。皺もシミも毛穴の大きさまで。天と身体を重ねればいや応無しに比べてしまう。ハタチと三十二歳の身体の違いをわざわざ自覚したくはなかった。 天は熱を帯びた瞳で見つめてくる。本気なの? と問いかけたくなったところで、し、よ、う、と目の前の唇が囁いた。
──誘惑されてる?
「嫌よ、絶対、いやっ。絶対しないから」
 思いのたけを込めて拒絶を表明した。妙にコドモっぽい言い方になった。


──結局してしまった。
 ちゃんとカーテンを閉め、光を遮った寝室のベッドの中で抱き合った。天はいつもより執拗に祥子を攻め立てた。
 祥子を容易に愉悦へと導く男は、今は隣で浅い寝息を立てている。行為の後では驚くくらいあどけない顔だ。
 祥子はいつまでも身体の芯に残る甘い疼きに身を委ねていた。日の高いうちから抱き合うという行為は、背信の匂いがしてとても甘美で空恐ろしい。到底、道徳的とはいえない後ろめたい行為がより深い快楽を連れてくるのだ。何だかんだ言って、祥子もいつもより感じてしまっていた。
 自分はいつからこんな淫靡な女になってしまったのだろうかと嘆息した。天が自分を変えたことだけは間違いない。
 身体を起こし、そっと天の背中に指を這わせてみた。筋肉の隆起。日に焼けていないタンクトップの跡がはっきりとわかる白い肌。肌の色の境目に沿って指を這わせてみた。天は起きない。つるんとした、古い傷痕にも触れてみた。セロテープみたいな感触だ。傷痕は触れられた時の感覚が他の部分より薄いのだと天は言っていた。一枚膜をはったみたいな感じだと。
 天が微かに眉根を寄せたので、指を外した。
 物音を立てないようにベッドを抜け出る。Tシャツと下着だけを着けて部屋を出た。
 リビングは日の光に満ち溢れ明るかった。
 電話の横に置かれた天の携帯電話が視界に入った。黒く艶のある精密機器。その下には二冊の文庫本。最近、天は本を読むようになった。小学生用の漢字ドリルはもう終えていたのだ。祥子の本棚の、あまり多いとはいえない書籍類の中から天は小説の類を選ぶ。
 携帯電話を手に取った。ちらりと扉のほうに視線を送る。天はまだ寝ているだろうか。暫く逡巡して、結局開くことなく元の位置に戻した。
 天は時折、夜遅くに誰かと話をしている。友達だと言っていた。施設に出たり入ったりを繰り返していた時にできた友達だと。天は一度だけでなく、何度か母親と別れて暮らしていたらしい。
 天が自分に嘘をつくとは思えないけれど。祥子は電話の相手が気になって仕方なかった。
 この気持ちは何なのだろう。嫉妬より心配に近いかもしれない。これじゃあ、コイビトというより肉親か保護者じゃないの、と思う。
 どうかこれから先、天に災いが近寄って来ることがありませんようにと願うばかりだ。 そして祥子は、ただ祈ることしかできない自分が歯痒かった。

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